家庭料理と外食のあいだ(3)
外食カレーは、
家庭カレーに負けた。
そう言われることがある。
家で作れる。
安い。
量も調整できる。
翌日も食べられる。
確かに、
家庭カレーは強い。
でも、
それなら説明がつかない存在がある。
カレーハウスCoCo壱番屋だ。
CoCo壱は「家庭カレー」に勝ちにいかなかった
CoCo壱の1号店は、1978年。
愛知県清須市で始まった。
当時すでに、
家庭カレーは完成していた。
1963年のバーモントカレー発売以降、
甘口・中辛・辛口が揃い、
1970年代にはレトルトも普及している。
家庭で作れるカレーを、
外で出しても勝てない。
CoCo壱は、
その前提を最初から理解していた。
だから、
「家庭よりうまいカレー」を
目指していない。
勝ったのは「味」ではなく「選択」
CoCo壱が用意したのは、
味の優劣ではなかった。
トッピング。
辛さ。
量。
ライスの増減。
これは、
家庭カレーが苦手な領域だ。
家では、
一鍋=一つの正解になる。
でもCoCo壱では、
一人ひとりが別の正解を持てる。
- 今日はほうれん草
- 今日はチーズ
- 今日は10辛
- 今日はライス少なめ
CoCo壱は、
家庭では起きにくい「個別最適」に勝った。
CoCo壱は「時間」に勝った
家庭カレーは、
作る料理だ。
CoCo壱は、
今すぐ食べる料理だ。
作らない。
洗わない。
匂いも残らない。
この「時間」の価値は、
1980年代以降、
急激に高くなった。
共働き世帯の増加。
単身世帯の拡大。
外食の平準化。
CoCo壱は、
家庭の代わりではなく、
家庭の外側にある時間を引き取った。
勝たなかったのは「家庭の居場所」
重要なのは、
CoCo壱が勝たなかったものだ。
家庭の鍋。
日曜日の夕方。
翌日のカレー。
そこには、
一切入り込んでいない。
CoCo壱のカレーは、
家のカレーを倒さない。
倒さなくても、
成立する設計だからだ。
喫茶店・食堂カレーの系譜を引き継いだ
昭和の喫茶店カレー。
社員食堂のカレー。
学食のカレー。
これらは、
家庭の代替ではなかった。
外にいるときの、
ちょうどいい食事。
CoCo壱は、
この系譜を
チェーンとして完成させた。
味を尖らせすぎず、
誰でも入れて、
いつ行っても同じ。
これは、
家庭に勝つ戦略ではない。
生活に溶け込む戦略だ。
専門店は「家庭と別の方向」に進んだ
一方で、
家庭と真正面から違う道を選んだ
カレー店もある。
スパイスカレー。
インドカレー。
南インド料理。
手間。
工程。
素材。
あえて、
家庭がやらないことをやる。
これも、
家庭に勝とうとしていない。
住み分けだ。
CoCo壱が勝ったもの、勝たなかったもの
CoCo壱が勝ったのは、
- 選択の自由
- 時間
- 場所
- 一人で食べる気軽さ
CoCo壱が勝たなかったのは、
- 家庭の味
- 家の居場所
- 鍋の主導権
勝ちにいかなかったから、
勝てた。
それが、
CoCo壱という存在の正体だ。
外食カレーは、負けていない
家庭カレーが強すぎた。
それは事実だ。
でも、
外食カレーは
家庭と戦っていない。
役割を分けただけだ。
次の話では、
同じ外食でも
中華料理は、なぜ違う道を辿ったのかを見ていく。
王将は、
家庭の何を引き受け、
何を引き受けなかったのか。
そこに、
もう一つの分岐がある。
・株式会社壱番屋 公式サイト「企業情報・沿革」
・株式会社壱番屋 公開資料(店舗展開・商品思想に関する情報)
・外食産業史・日本の食堂文化に関する一般文献
・家庭カレーの普及史(第2話記載資料に準拠)
※本記事は、公開情報および一般的な生活史・外食史の知見をもとにした考察です。

